試住空間「エコハウス町家」プロジェクト

京都の下町情緒をどっぷり体験

2000年7月にオープンしたこの施設は、町家に住みたくても住めない人や、ただの観光ではなく京都の下町情緒をどっぷり体験してみたい人向きの町家として短期滞在ができるプロジェクトだ。京都府立大学大学院生の提案だった。
エコハウスというと、エネルギー消費を抑えた環境に優しいイメージと勘違いされるが、アスファルトで固められた都会にあって、土の残った小庭や路地裏長屋のコミュニティーなど、貴重な文化を含めてエコハウスと呼んでいる。
エコハウスの周辺には、同じような小さな長屋町家が多くある。50年前には、みんなこのような家屋に大家族で住み、小学校が大人数のクラス編成であったことなど夢のようだ。三畳と四畳半では、たしかに狭いと感じるが、長屋情緒を味わう短期滞在にはもってこいだ。
しかし、オープンしてから半年というものは、まったく体験者がなかった。国内でも初めての試みだったのではないか。相当、珍しかったのだろう。各新聞社や雑誌の取材が後を絶たず、メディアへの浸透期間がちょうど半年かかった。年明けからは、予約の問い合わせが相次ぎ、順調に、改築費や空(から)家賃、半年分の赤字を減じることができた。しかし、商売でやっているわけではないので、人件費や給料というものはもらわず、宿泊施設とも一線を画した。
おかしなもので、エコハウスが有名になり、流行ってくると、同じようなことを商売で始めようとする人が出てくる。
最近では、京都の町家や町並みの保全運動の一環として、「町家に滞在できる施設」の必要性を学識経験者までが唱え始めた。そして、エコハウスはどういう運営方法をしているのか?といったノウハウを質問してくる会社まで現れる始末。
大局的に見れば、結果、町家や町並み保全の一翼を担うことができれば、それでいいのだが、エコハウスまでが営業と誤解されるのには釈然としないものが残る。
法事の後席で檀家のS氏と話していた時のことだ。だれでも入れます保険なのに、既往症や病気があれば、結局、保険に入れなかったり、保険金がおりなかったりする。そのため、保険に入れない不満を持った人は山ほどいるにちがいない。そういう人も入れる保険をNPOでつくれば、結構やっていけるのではないか?とS氏に尋ねたら、「NPOでやってるところがありますよ」という答え。だが、もしそれが成功したら、見向きもしなかった大手保険会社が資本金にものを言わせて、真似や横取りしたり、そのNPOを配下に組み入れたりするのではないか?と言うと、「別にいいんじゃないですか。それがNPOの目的なんだから、そういう風に世の中が市民指導型の良い方向に変われば、もうNPOも必要ないわけで」。そう言われた時、「はっ」と気がついたものだった。趣旨は異なれど、結果的に京都の伝統的建造物や伝統文化に広く世間の目が向くようになれば、エコハウスは役割を果たしたことになるのではないかと。