町家回覧板

空き町家や空き工場の有効利用 どんどん広がる輪



京都では、町家が大ブームになっている。今では、京町家と言われる立派な商家建ての町家から、路地裏の長屋町家まで、さまざまな形の町家が注目され、活用されている。しかし、たった九年ほど前までは、路地裏の空き家や空き工場などは、放置されて、借り手のないまま、朽ち果てる運命にあった。そこに一石を投じたのが、ネットワーク西陣(西陣活性化実顕地をつくる会)による活用だったのである。
たった一つの活用事例が報道されたことがきっかけとなって、思いもよらぬ波及効果をもたらした。その瓢箪から駒のような出来事を振り返ってみたいと思う。
ネットワーク西陣は、ウェブ発信をはじめた1999年から「町家倶楽部ネットワーク」という形に継承され、現在に至っている。
多くの地域や団体が視察や見学に訪れ、西陣を中心に広がったこの活動に注目している。そこで、これらの活動について正確に知ってもらうためのコーナーを設けて、借り手や町家の所有者のご理解を得られたらと思っている。
[町家倶楽部ネットワーク]
京都における空き町家や空き工場の有効利用を推進している任意団体で、わたしたちの有効利用の実績は、百五十軒を越えてどんどん広がっている。
しかし、今でも、私は、自分たちがつくった町家倶楽部ネットワークを「まちづくり団体」とは認識していない。
おかしなことだが、まちづくりをしようと思ったわけではなく、空き町家を斡旋しようと思ったのでもない。「誰のためにやっているのか?」「何のためにやっているのか?」と問われれば、相変わらず、「自分が楽しいから、いろんな人と出会えるから」と答えるに違いない。
人が人と出会い、見ず知らずの者同士がいつの間にか、親しい友人になる。そして、どんどん輪が広がってゆく。ひとつの出来事から派生してゆく様子は、まるで水面に投げた波紋がゆっくり広がってゆくようだ。それが、京都の伝統的町家を舞台としていることに意味がある。
最初は貸したがらなかった大家さんの理解も得られるようになり、多くの人が町家暮らしを楽しみ、アトリエなどとして活用している。
この活動は、ほとんどボランティアなので、忙しくてしんどいのだが、「面白い出来事」の誘惑にはつい負けてしまう。手弁当でやるだけの「やりがい」がそこにはある。
心ない人に、「あいつは不動産屋をやっているんじゃないか」などと陰口を言われることもあるが、わたしたちの活動をよく理解してくれているのが、借り手や貸し手という当事者であったり、助成金団体であったり、マスコミであったりする。
マスコミ報道によって、全国に知られるようになったおかげで、あちこちで、うち捨てられていた廃屋や路地裏町家の再生が脚光を浴びるようになった。
さて、ひょうたんから駒のような出来事と、それが波及して大きく広がった結果、町家ブームの引き金になった事実にスポットをあてて、次回から順を追って連載したいと思う。