お見合いの現場風景

町家倶楽部で家を探している人は、ホームページを見て、気に入った家があれば、地図をもらって、そっと立地条件などを見てくる。内部は見ることができない。
そこで外観や環境が気に入れば、正式にお見合い申込書を書く。以前は、お見合い用エントリーシートがあって、必要事項を書き込みさえすればよかったのだが、それでは、画一化して、個性が現れないという理由で、自由に書いてもらっている。
それらが何通か集まった時点で、受付を一応終了にする。大家は、これまでに受け付けたお見合い申込書の中から、好みにあった人からお見合いを開始する。お見合いで、初めて家の内部を見ることができるという段取りだ。その時点で双方が気に入れば、お見合い成立だ。どちらかが気に入らなければ次の人だ。だからとても時間と手間がかかる。
大家は京都とは限らない。そうすると一々お見合いに出て来れないという事態も発生する。そういう場合には、お見合い申込書を提出した人に限って、町家倶楽部のスタッフが先に内部を見せて、そのうえで正式エントリーする人に的を絞ることもある。町家倶楽部の活動が全国に知れわたるようになってから、そういう現象が増えてきた。
また、最近の変化も見逃すことができない。わたしたちが活動を開始した1995年当時は、大家も貸せるものかどうか不安な人が多かったし、借り手もアトリエ兼住居というSOHO形式を求めるアーティスト系の人が多かった。そして、借り手にはバイタリティーがあった。とてもエネルギッシュで、自分たちで掃除し、改築し、魔法の空間を創作してきた。しかし、現在は、不動産価値を知っている大家が手数料のかからない町家倶楽部を利用するケースが増え、借り手も町家ブームに乗って最初から綺麗な町家を求めてきた。人と人を繋ぐ町家倶楽部の趣旨とはかけ離れてきたわけだ。
不安な大家の気持ちを察し、家賃や契約内容のアドバイスをおこない、入居希望の若手アーティストやものづくりをする人たちを応援し、近所付き合いやコミュニティーの再構築に一役買っていた町家倶楽部の活動は、町家ブームで町家を投機の対象とするような社会ニーズの出現で、なかなか難しいものになってきた。それでも、町家に愛着をもった人がいる限り、楽しい活動だと思う。
最近、ようやく、新築町家を建てるに際して、建築許可がおりるようになったらしい。嘘のような話だが、消防法や建築基準法や条例で、伝統的建造物である町家は再建築不可だったのだ。建築許可がおりるようになったからといって一気に町家の減少に歯止めがかかるとは思えない。なくなれば景観が台無しになる現存町家の耐震補強や防火に重点をおいた改修は、やっぱり高くつくからだ。